スタッフ対談
-牧野リトリートフィールドが始まって約1年半が経ちました。
今回、濱中理事長、天水リーダーの元、ここで働いているスタッフの近藤さん、村上くんから普段はあまり聞かない心の本音なんかを伺ってみました。
自主性で働くことの楽しさと充実感
濱中理事長:
近藤さんも村上くんも、「姫路こころの事業団」時代から一緒にやってきてるけど、昔と比べるとすごく元気になったね。
村上さん:
僕は中学生のときに学校に行かなくなりました。それまでも、幼稚園のときから本当は行きたくなかった。何がきっかけなのか、しっかりとは覚えていませんが、大勢の人と顔を合わせるとすごく疲れてしまって。頭に何も浮かばない、話せない・・・いまで言うと、場面緘黙(※ばめんかんもく)だったのかもしれません。
中学2年生の2学期から、完全に学校に行かなくなりました。そして引きこもって間もなく、15歳くらいの頃に、たまたま深夜につけていたテレビから流れてきたCMで、音楽の勉強をしながら高校の資格も取れるという学校があることを知ったのです。
ずっと音楽に関わることがやりたかったので行きたいと思ったのですが、ちょうどその頃に精神的におかしくなり始め、もともとあった人と関わることのしんどさや自信の無さからどんどん苦しくなってしまい、結局そこには行けませんでした。
※場面緘黙(ばめんかんもく)・・・家庭ではごく普通に話せるけれど、幼稚園・保育園や学校など社会的な状況で声を出したり話したりすることができない症状が続く状態。
濱中理事長:

濱中理事長
そうなんやね。これからどうなるかなとか不安もあったやろうね。
村上くんは「こころの事業団」以外の福祉団体でも訓練を受けていて、その頃、よく別所の畑(「牧野リトリートフィールド」の前の場所)にも来てくれてたよね。本当によく働いてくれるなと思って見てたんよ。当時、まだ畑としては完成していない土地だったので、石ころ拾いからやってくれてたしね。
以前の支援事業所には2年しか居られないから、これからどうしようかという時に、あまりにもったいないから別所に来てもらうことになったのよね。
-牧野リトリートフィールドに来てから、何か変化はありましたか?

いつも笑顔の村上くん
村上さん:
ここでは毎日、畑と向き合い、野菜を育てています。
決まった作業を与えられた時間やる、というのとは違い、自然が相手なので毎日変化があります。自主性で働けるのが一番楽しいです。
天水(あまみず)リーダー:
村上さんの育てたい畑もできたしね。
村上さん:
はい。責任を感じる部分もあるけれど、毎日が楽しくなりました。
じつは僕、野菜全般的には好きじゃないんです(笑)。
なので、かぼちゃやさつまいも、とうもろこし、スイカなど好きなものを育てています。
育てる野菜も、やり方も、自分で考えてさせてもらっています。とてもありがたいです。
先のことまで考えてチャレンジ!
天水リーダー:
近藤さんはどう?
近藤さん:
僕は、トマト、かぼちゃ、きゅうり、落花生の種を撒いたところです。あと、予定では、もうすぐ唐辛子となすびも植えます。
天水リーダー:
2月くらいから苗を育てるんですが、近藤さんはとてもよく面倒を見てくれていました。
せっかく育てた苗を生かしたいと、いろいろ考えてくれてたしね。

和やかな雰囲気の近藤さん
近藤さん:
販売のことまで考えて、今回はあまり変わった野菜はやめておき、無難な野菜を選びました。落花生に関しては、収穫体験のようなイベントにつながるといいなと思い、チャレンジしてみました。
じつは、「こころの事業団」の時からずっと農業をやってみたいと思っていたんです。実際に別所の畑でやることになり、最初は自分ひとりでもできるだろうと、変な自信があったんですが、とてもじゃないけれど、ひとりでは無理だということを知りました。
濱中理事長:
そこでどう感じた?自信なくしたからやめたいな、とか、もうちょっとがんばろうかな、とか。
近藤さん:
とりあえず続けてみようという感じです。
実際に取り組んでみて、農業の現場の現実もわかってきたし、育てて販売して・・・という流れが本当に大変なことだなとわかりました。
天水リーダー:
二人なら、福祉の枠から外れて、牧野リトリートフィールドで一緒に働けるなと思えました。実際、一緒に働いていて、体力もついたし元気になったし、楽しそうに仕事してくれているし。仕事もまかせられるから、僕も次の展開のことを考えたりもできますしね。
心境にも変化が
-ここに来る前といまでは、心境などに変化はありますか?
村上さん:
以前、「姫路こころの事業団」にいる時までは、自分は他の人よりも絶対に劣っていて、何もできないと思っていました。いまは、何でもできるとまでは思っていませんが、チャレンジするようになりました。できないなりにもちょっとずつ学んでやっていこう、最初からできないと思わずにとりあえずやろうと。前はもっと諦めが強かったです。
また、ちょっと前まで精神的にドーンとしんどくなることもあったんですが、だいぶ減りました。落ちる回数も角度的にも。
近藤さん:
ここは本当にみなさんが優しくてあたたかくて。受け入れてくれるところがすごく嬉しかったです。とても居心地が良いです。
さっきも言ったのですが、思ったほどいろんなことができなかったけれども投げ出さなかったのは、この環境だったからだと思います。
やるべきことがある、ということはすごいことだと思うし、そういう環境が与えられていることはものすごく恵まれていると思うんです。だから、投げ出すということは考えませんでした。
村上さん:
僕も、昔に比べると、すごく人付き合いがしやすくなりました。
僕が不得意なこと、例えば人とコミュニケーションをとることも、天水さんがやってくれるので、とてもありがたいです。僕たちの補佐をしながら、いろんな人脈をひろげていくのがすごいなぁと、いつも思っています。
近藤さん:
そうですね。天水さんは気配りがすごいなぁと、いつも思っています。天水さんがいてくれると安心感があります。

天水(あまみず)リーダー
天水リーダー:
そんな風に思ってくれてたなんて、嬉しいですね。うるさい奴って思われてないか心配してました(笑)。
僕は、リーダーとして、牧野リトリートフィールドを発展させていきたいと思っています。まだ始まったばかりの畑ですが、無農薬・無肥料で野菜を育てる自然栽培で、土の中の微生物たちがエサとなり、美味しくて体にやさしい健康な野菜をたくさん育てたいと思っています。二人ともとても素直でピュアなので、きっとこの栽培も体で感じて覚えてくれると思っています。
いまは目の前の農業で精一杯ですが、牧野リトリートフィールドのいいところは自分たちで決められるところ。やりたいこともできるし、羽ばたくことだってできる。ここでいろんなことを覚えてスタッフになることも、農業を教えてあげることもできるしね。自分自身がステップアップして心が豊かになれたら、すごくいい人生やしね。そうやって、畑もスタッフも、みんなが好循環でまわっていったら素敵やなと、いつも思っています。
濱中理事長:
普段、なかなかこういう話をしないから、今日は二人の本音が聞けてすごく良かったです。
こうやって、二人が感じている思いなんかを発信してくれることで、心に傷を負った人が自分だけじゃないと少しホッとしたり、これからの自分の人生に光を見出して前へ進もうと思ってもらえるかもしれない。
また、こんな場所があるなら行ってみたい、応援したい、と思ってくださる方には、農業体験やイベントに参加していただいたり、サポーターとなって応援していただけたらとても嬉しいです。
-最後に、お二人からメッセージをお願いいたします。
近藤さん:
牧野リトリートフィールドはとても居心地がよく、人間関係に悩むことはありません。そんな環境の中、野菜を育てることから収穫、販売までの仕事をさせてもらい、とても充実しています。
いま、自分が何をやったらいいのかわからなくて悶々としている人に、牧野フィトリートフィールドに来てほしいです。何かしらの生きがいを感じてもらえるんじゃないかと思います。
村上さん:
ここでの仕事は決まった流れ作業だけではなく、自主性をもって働けるので、責任も感じるけれど楽しいです。僕は、かぼちゃ・スイカ・さつまいもなどを育てています。スイカが大好きなので、とても楽しみです。
牧野リトリートフィールドに来てからチャレンジする気持ちが出てきたし、心が落ちる回数も減りました。行きづらさを感じている人がおられたら、ぜひ来てほしいです。
-みなさん、とても貴重なお話を、ありがとうございました。(2019年6月 インタビュー)